terre des hommes 2

書き忘れや書き損ねについての備忘

『PRESIDENT Online』での連載を始めるにあたって

●連載をはじめます
 博論を元にした単著を出版してからはや4カ月。反響が色々ありました。といっても新聞の書評、新聞・雑誌からの取材が数えるほど、あとはネットで色々書いて下さった方がいるという程度ですが、それでも、今までの自分の人生にはない貴重な体験をさせてもらっています。

 

 さて、そうした反響の一つといえると思いますが、拙著を読んでくださった『PRESIDENT Online』というサイトの編集担当の方からお声かけをいただき、同サイトで連載を持たせていただくことになりました。連載タイトルは「ポスト『ゼロ年代』の自己啓発書と社会」です。

 

 そのコンセプトは連載初回の記事に書いてあるので省略しますが、基本的には拙著『自己啓発の時代 「自己」の文化社会学的探究』勁草書房、2012)のその先の話とだけ簡単に言っておきます。

 

 ついでに改めて言っておきますが、この本は「これからは自己啓発の時代だ!自己啓発しよう!」という趣旨ではなく、「自己啓発書が売れているみたいだけど、何でそんなことが起きているんだろうね?」という趣旨です。その点お間違えなきよう、よろしくお願いします。

 

●連載を引き受けるにあたって

 連載を引き受けるにあたっては、少し考えました。具体的には、言い方は色々あると思いますが、学術的とはいえない媒体で、やはり純粋に学術的とはいえない書き物をするということについてです(もちろん、今回の連載では、自分の今までの書き方をある程度保持することを認めてもらっていますので、これは雑駁に言ってということです)。

 

 自分自身、こういうところで露出するのはどうなのかな、そもそも自分にその能力があるのかな(それを勘違いしかけているのではないかな)、と考えました。また、何人かの方に相談して、その結果、「自分を安売りするな」から、逆に「今の時代、アカデミックな領域での業績だけでなく、自分にある程度一般的な訴求力があることを示しておく必要はあるよ」まで、色々なご意見をいただき、やはり考えました。

 

 等々、色々ぐるぐるしたのですが、結局こう考えることにしました。

 つまり、自分の本を読んで面白いと言ってくれて、また最初に声かけをしてくれた編集者さんに、まず仁義として応えるべきなんじゃないか、というか応えたいじゃあないかと。また、自分にその能力があるかないかは分からないけれど、とにかくできるだけのことをして、そこでどのような反応があるかをしっかり受け取ろうじゃないかと。まだまだ研究生活の先は長いはずなのだから、色々経験してみるのも悪いことじゃないだろうと。

 まあ、せいぜいこの程度のことしか考えられない自分ですが、とにかくやってみようということにしたわけです。

 

●今の時点で少し考えたこと

 また、何か学べるところもあるんじゃないかとも考えています。もちろん各回の連載で素材となる資料を読み込むことで学ぶものもありますが、たとえばアカデミックな書き物の意義、というようなこともこの連載を始めるにあたって考え始めています。

 

 具体的にいうと、今回の連載は大体1回分が8000字くらい、それを4トピックに分けて、約2000字分を1週間ごとに配信というスタイルになっています。で、いってみれば、この2000字ごとに何か一つ言わなければならないわけです。

 

 一方、アカデミックな書き物だと、論文一本が大体20000字くらいです。ことによると、この20000字でようやく何か一つのことをいう、というのがアカデミックな書き物ではないかと思っています。先行研究を調べて巨人の肩を登って登って、最後にほんの少しだけ向こうをのぞき見るような、ということがよく言われます。それをするために、先行研究の整理、問題点の導出、作業課題の導出、手続きにのっとった論証もしくはデータの検証、考察、というような一連の流れを一つ一つ行っていきます。で、それで何か一つやっといえる。

 

 こういうと何だか面倒な感じがしますが、でもこうやることで初めて、しっかりとした知識を新たに生み出すことができるのだなと、この連載の原稿を書きながら改めて思うに至りました。

 2000字で何か一つ言うというスピード感を鍛えることも重要で(特に自分はそういう訓練をまったくしてこなかったので)、そういう場で生きている物書きの方々はすごいなあと実感もしているのですが、その一方で、翻ってアカデミックな書き物の意義というか、それでないと出来ないことがあるなあ、とも思ったりしています。


 

 とまあ色々書きましたが、できるだけの力を注ぎこんでやっていこうと思います。ご意見・ご批判など、お気軽にいただければ嬉しく思います。